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「西欧式交渉術」
1.nerdwallet

               写真:(www.nerdwallet.com)
【蛇足的まえがき】
 交渉術と言えば、メキシコのユダヤ社会一番の大金もちのウーリッチ・サースを思い出す。
ある日、彼に招待されて、彼が所属するクラブで二人きりでゴルフをプレイした。2番ホールでキャディーが、「ウーリッチは口うるさくてケチなので、彼のキャディーの成り手がいないのです。止む無くキャディー・マスターの私がバッグを担ぐ羽目になりましてね」と語ったのには驚いた。
 メキシコのゴルフクラブは一人一人にキャディーがつくのが決まりで、キャディーにはキャディー・フィーの他に20ドル程度のチップを払うのが習慣になっていた。ところが、億万長者のウーリッチは20ドルのチップを節約するために、1番ホールから、キャディーのクラブ選択が誤りだった、グリーンの読み方も反対だった、等々とケチをつけ始めるのである。だから「チップは払わないよ」と結論づけるのだった。億万長者にとって、20ドル節約することが重要で、その結果の悪評などは屁の河童なのだ。これがユダヤ式「交渉術」である。

 以上は個人的交渉術だが、これが究極の交渉術である外交になると、組織的かつもっと洗練したシステムになる。一例をあげよう。ハーバード大法学部を出た青年がホワイトハウスの実習生に採用された。数年間の研修後、彼は在Tokyo米大使館に派遣された。彼に与えられた日本での任務は、日本社会に人脈を築きあげることだった。十年後、出身州とワシントンの要職に就いた彼は、築き上げた人脈を生かしてTOYOTAの工場を出身州に誘致したのだった。

米国にとって世界各地の大使館は、軍を含む各種政府機関から派遣されてくる、幹部たちの合同庁舎になり下がっている。何よりの証拠は、米国の主要国大使はキャリア外交官ではなく、政治任用の政治家及び民間人が大半を占めていることである。私は将来の次官候補と言われた、日本外交官を数人知っているが、彼らは永田町の人脈作りには熱心だが、外国には出張でしか行かないものだから、外交官ではなく内交官になってしまっている。こんな状態だから、日本政府は各国の大統領が変わる度に、コネ探しにやっきとなる始末である。これは交渉術と言うより政治の問題である。一方日本のビジネス界は外務省よりはよほどしっかりしているので、世界中で高い実績を上げている。

さて、今回の小話は交通巡査が登場する。米国や日本ではあり得ないが、メキシコでは、こんな場合袖の下が利くのである。嫌な話だが、なれると便利ではある。だが、「ところ変われば品変わる」で、米国には彼ら一流の交渉術がある。では、パトカーに止められたアメリカ女性の、あっと驚く為五郎的交渉術をご覧ください。(テキサス無宿記)


一笑一若・アメリカ小話「西欧式交渉術」
 交通巡査はスピード違反車両を停止させると、女性に免許証の提示を求めた。
「ご免、無いわ。飲酒運転で没収されたのよ」と女性は答えた。

車検証の提示を求められると、女性は「見せられないわ。私はこの車の持主を殺して、車を奪ったの。彼の死体はトランクのなかよ」とよどみなく平然と答えた。

 ショックを受けた警官は直ちに本部に報告して、応援を要請した。
数分後、6台のパトカーがけたたましくサイレンを鳴らして現場に到着した。

交通巡査隊長は拳銃を構えながら、慎重に女性の車に近づくと、
「お嬢さん、トランクを開けてください」と大声で叫んだ。
女性がトランクを開けると、中は空だった。

「これはあなたの車ですか?」と隊長が尋ねた。
「Yes,これが車検証です」と女性は書類を見せた。

混乱を隠せない隊長は、「部下はあなたは免許証も持っていないと報告したのだが…」
とつぶやいた。

「もちろん持っているわ」と言って、女性はバッグから取り出した免許証を見せた。

「どうなっているんだ、まったく…」と隊長は理解に苦しむと言った表情で頭をかいた。

「部下はあなたは免許証を持たず、車の持主を殺して車を盗み、死体をトランクの中に入れた、と本官に報告したんですぞ」と言った。

「ウソよ!まったく信じられない作り話だわ。隊長さん、あなたはその上、あの嘘つきの間抜けが、あたしが速度違反もしたと言った、と言うつもりじゃないでしょうね?」
と言って女性は隊長をにらみつけた。

お後がよろしいようで……。