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2021の10大リスク 第2部(No.2~No.4)
(ユーラシア・グループ Ian Bremmer, Cliff Kupchan)
1.saexpressnews - コピー

                写真:(www.expressnews.com)
 前回は「2021の10大リスク」のNo.1のみをレポートしました。すると、多くの読者からせめてNo.4までは詳細を知りたい、との要望がありました。まことに有り難いご提案なので、下記に掲載することに致しました。ちなみに、再度10大リスクを列記しておきます。
1.*46 (第46代米国大統領バイデンを指す)                       
2.コロナ後遺症
3.気候変動問題                   
4. 米中緊張の拡大
5.グローバル・データの報い              
6.サイバー空間の紛争
7.孤立するトルコ                    
8.原油安にあえぐ中東
9.メルケル後のヨーロッパ                
10.混乱が続く中南米


10大リスクNo.2 コロナ後遺症 (LONG COVID)
2.Top-Risks-

              写真:(www.eurasiagroup.com)
2021年は、新型コロナウイルスのワクチン候補に関して、専門家が昨年期待していたよりも明るいニュースで始まる。世界中の人々が、 2021年の前半には普通の生活に戻り始めるだろう、という楽観的な見方を強めている。 
しかし、たとえ大規模なワクチン接種が開始されても、新型コロナウイルスやその広範囲にわたる影響が消滅することはない。各国政府は性急すぎるワクチン接種スケジュールに追われ、パンデミックの経済的な爪跡である多額の公的債務、失業者、そして信頼喪失などが残る。ウイルスの進化により、集団免疫とワクチンの効果という当初の目的が、時とともに意味のあるものへと変化していく。経済回復の程度は国によって、また国内でも地域によって異なるため、体制側に対する国民の不安と怒りは増大する。さらに、新興市場は債務危機に直面する可能性がある。 

先進国と新興国の国内情勢
 経済回復がK字型、すなわち一部のグループは繁栄を取り戻す一方で、他のグループは依然として困難に見舞われているという状況に、すべての 国が悩まされことになる。これまでウイルスの矢面に立たされてきた人々、すなわちサービス部門の労働者を始めとする低所得者やマイノリティのコミュニティや女性は、過去に例がないほど長引く所得の減少と雇用の安定が見通しにくい状況に悩まされる。 これは主に、十分な景気刺激策が行われず、予算も不足する一方で、物価を安定させて需要を下支えする中央銀行の能力に陰りが見えるためである。米国では、今後のどのような景気刺激策であれ、議会を通過するものは最も大きな被害を受けた人々の救済には不十分であろう。欧州の復興基金が有効な支援を提供するのは、早くて2021年後半であり、それまでは、資金不足に悩む周辺諸国は他の資金源を見つけてしのぐ必要がある。

 しかし、経済刺激のために国債の追加発行に 頼れば、利回りの急上昇を引き起こすリスクがある。新興市場では、不十分な景気刺激策やセーフティネットにより、その影響がさらに深刻化する。中南米、中東、東南アジアでは 問題は急速に悪化し、社会的セーフティネットがある程度 しっかりしている欧州や北東アジアでは、まだ良いがやはり影響を受ける。 

先進国市場と新興市場のはざま
ワクチンへのアクセス、配布状況、および債務負担を主な原動力として、復興までの 道のりは国によって大きく異なるが、新興国が最も厳しい 状況に置かれるだろう。国内でワクチンの製造能力を持たない多くの国は、事前購入契約を結ぶ余裕がないために順番待ちの列の後方におり、2021年後半か2022年まではワクチン 供給を受けられない。新興国では、インフラ、特に「低温流通 網」が脆弱なためワクチンの配布が遅れ、最も有効性の高いワクチンは除外される。
ワクチン共同購入のための国際的枠 組み「COVAX」も有益ではあるが、先進諸国が自国の取り分を 確保するまで、この枠組みを通じて相当量のワクチンが 供給されることはない。したがって、これらの新興国の国民の 多くが、今後も厳しい旅行規制の対象となり、それが経済成長を阻害する。新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数で他国よりも健闘している東南アジアでさえ、長期にわたる貿易や観光業の低迷に苦しみ、そのために 経済回復は遅れ、根底にある階級、民族、宗教間の分断も 激しくなる。 

今 年 は 大 打 撃 
いくつかの例外を除き、2020年のパンデミックは、政府の基盤を揺るがしたり、存亡にかかわるような経済危機を引き起こすことはなかった。むしろ「旗下結集」現象を引き起こし、世界の中央銀行は、大量の流動性を供給せざるを得なかった。しかし、2021年には、多くの市場の根底にある脆弱性が明らかになるであろう。各国政府は、2020年の景気後退の余波や大幅な公的債務増加や、社会的セーフティネットのほころびに悩まされる。 

今年は世界的に不安感が巻き起こり、現体制を支持しない有権者が増える。それにより、抗議運動が活発化し、ポピュリストの候補者にとってはチャンスが訪れる。米国では、10大リスクNo.1「第46代アメリカ大統領」で 説明したK字型回復により、二極化は進行する。それが トランプの支持者を勢いづけ、ガバナンスの質を低下させる。 発展途上国では、同様の理由から、社会階層によって復興 レベルが異なることで既に困難であるガバナンスをさらに難しくする。 

そして債務危機問題がある。これは、2021年に発展途上国が 直面する問題である。財政圧力と差別する貸し手に直面する新興国は、新型コロナウイルスによる経済的な打撃を緩和する余力が限定される。「炭鉱のカナリア」、すなわち最初に波乱の兆しを告げるのは、国際資本への依存度が高く、基盤がぜい弱な要新興国、つまりブラジル、南アフリカ、トルコである。すでにこうしたストレスに直面している、更に小さく貧しい国々(例えば、コスタリカ、エルサルバドル、ザンビア)は、IMFやその他の公的金融機関から莫大な財政支援を受けているか、受けることを検討しており、中には債務の再編が必要な国も出てくる。Gゼロ世界では、そうした決定を取り仕切る ルールはあまり明確ではなく、中国の役割も不透明なため、不確実性は高まる。

 新興市場における経済危機は、先進国の経済回復の芽を 摘み取り、世界経済の成長率を大幅に低下させる可能性が あり、復興そのものにおける格差が、政治的な不安定さを増幅 させる。今年は、我々の健康だけではなく、世界経済においても、新型コロナウイルスの脅威が根強く残るだろう。(No.2リスク 終わり)


10大リスク No.3 気候問題
(Climate: Net Zero meets G-Zero)
3.Top-Risks-

              写真:(www.eurasiagroup.com)
ネットゼロとGゼロの交差 2020年は、地球史上最も暑い一年となり、国や企業は、拡大する 危機に対処するための新たな方針を発表した。中国、欧州連合、英国、 日本、韓国、そしてカナダは、いずれも今世紀半ばまでに、国全体の二酸化炭素の排出量を実質(ネット)ゼロにする意思を表明した。 また、グローバル企業や金融機関も同様の意欲的な目標を設定した。 

最も重要なのは、今年は米国がこの世界的なイニシアティブに復帰すると予想される点だ。 バイデンは、就任初日にパリ協定に復帰するのみならず、遅くとも2050年までには、世界随一の経済大国である米国が二酸化炭素排出量を実質ゼロにする強い意思を明らかにしたのだ。バイデンのこの公約は、トランプが怠ってきた気候変動対策を覆すだけでなく、世界が一致協力する新たな時代の始まりであり、Gゼロに対する ネットゼロの勝利を意味する。但しそれは、筋書きどおりに事が運べばの話しだ。 現実には、気候変動に関するより野心的な企てに由来する企業や投資家にかかるコスト、そしてこれらの気候変動関係の諸計画の相互の連携を過大評価することに由来するリスクが伴う。 ホワイトハウスは、大規模な気候変動対策を公表する予定だ。(後略)


10大リスク No.4 米中の緊張は拡大する 
(US-CHINA Tension broaden) 
4.eurasia g.

                                                      写真:(www.eurasiagrouo.com)
 トランプの退陣により、米中間の対立は今までほどあからさまではなくなり、双方が一息つこうとする。しかし、事態の沈静化につながるこうした要因も、米国の対中関係の緊張がもたらす同盟諸国への波及、世界を回復させようとするなかでの競争、そして世界をよりグリーン化するための競争という、新しくこれまであまり注目されてこなかった三つの要因によって相殺されるだろう。全体としては、今年も昨年同様、緊張に満ちたライバルとしての米中関係は続くのであって、それは危険をはらんでいる。 

米の対中政策:トランプとの違い
より強硬な対中政策を一方的に追求したトランプ政権と違い、バイデンは、対中政策に ついて同盟諸国を糾合し、連携を図って、具体的な経済政策や安全保障政策に対する 対中統一戦線の形成に努める。その際の米国の主要な連携相手は欧州連合、日本、インドとなる。中国と欧州連合の投資合意のつまずきにも関わらず、中国に対する不信感が広く高まりつつあるために、新政権はある程度の成功を収めることになる。そしてそれは転じて、中国とこれらの米国の同盟国との間の溝を深めることになる。 しかし、広く中国に対抗する統一戦線を形成するのは、容易に実現できることではない。 中国政府は、とりわけ米国政府と緊密に連携する国に対しては、昨年オーストラリアに 対してしたように反発するだろう。中国政府は包囲網形成の脅威に対抗するために、経済的なインセンティブを自ら提供する場合もある。そしてこのことが、米中関係をさらに 悪化させる外交合戦を引き起こす。

 米中両国は、他国にワクチンを提供することにより、その影響力を拡大しようと努力する。 中国は、米国に勝てる態勢は整っている。国内ではパンデミックをほぼ封じ込めたために、その強力な国家機構を利用して、ワクチンの輸出をより容易に行うことができる。
また、現在米国で入手できる最高品質のワクチンと違い、シノファームのワクチンは、比較的高い温度(約2~8℃弱)でも問題なく輸送できるために、 低温輸送インフラが不足している低・中所得国にとっては魅力的である。

  こうした強みにより、中国は、ワクチン外交での大きな賭けに勝つことができる。中国政府は、ワクチンの輸出契約だけでなく、主要新興国でワクチンを製造する契約も結んだ。これらの取り決めにより、中国は、東南アジア、中南米、サハラ以南アフリカで友好関係を強化している。また、ワクチン外交の急伸は、中国の外交政策の決定を「戦狼派」ないし強硬派が優位に立って進めていく中で起きる。その結果、中国政府からは傲慢な姿勢が強く見受けられるだろうが、ワクチン接種を待ち望んでいる南側諸国にとっては明るい知らせだ。

 一方、バイデンは、景気回復の迅速な始動を含め、内政に集中する必要があるために、中国とのこの競争に充てる時間もリソースも不足している。また、米国は、国内のワクチン配布で容易ならざる難問を抱えており、米国の国際的イメージがさらに傷つく恐れがある。フィリピンのように、米国との対外政策への更なる協力の条件として、ワクチンへのアクセスを求めているような国に対しては、米国の交渉力は落ちる。その結果、ワクチン配布の段階で、中国が相対利得を獲得したことについて、米国のエリートや一般市民がますます反感を強め、二国関係全体にさらなる緊張がもたらされることとなる。 

グリーンテクノロジーを巡る競争
 もう一つ新たな緊張要因となるのは、グリーンテクノロジーをめぐる競争である。中国は、2030年までに炭素排出量を減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指すと表明し、バイデンの就任前にパブリック・ディプロマシーで点数を稼ぎ、米国を劣勢に立たせようとしている。中国はまた、バッテリーから電気自動車、太陽光や風力発電を含め、21世紀の主要なクリーンエネルギーのサプライチェーンの多くで、すでに米国を大きくリードしている。ここでも米国は、第二次世界大戦後に続いてきた新自由主義からの脱却となる産業政策ツールを活用して、ひたすら中国に追いつこうと躍起になるだろう。また米国は、クリーンエネルギーのサプライチェーンを自国に取り戻すために大規模な投資を行い、海外で石炭に投資する中国の面目を潰し、気候変動とクリーンエネルギーの問題について中国にさらに圧力をかけるために、同盟国を結集させる。中国も、トランプ時代に気候変動対策におけるソフトパワーの活用になじんでいるため、こうした米国の動きを容易に看過することはしない。

 同盟国の結集、ワクチン外交、そして気候関連技術の開発競争に関する米国の努力は、長年の緊張と相まって、米中間関係をさらに複雑化していく。 二国間の貿易およびテクノロジー、ウイグル人の扱い、香港、台湾、そして 南シナ海に関する見解の相違も、すべてが今年に持ち越される。そして、こうしたこと全てが理由となって、危機発生時には誤算が生じ、エスカレーションが起きる可能性が高止まりすることとなる。 

 確かに、両国は、1月20日の大統領就任式の後、しばらく休戦期間を設けたいと考えるだろう。バイデンにとっては内政に注力するため、習近平にとっては、2022年の党大会に先立って権力の強化にいそしむための小休止である。しかし結局は、雪解けとまではいかない。今年、両国間の緊張は全体として高く、しかも深刻化していく。(終わり)

参考資料:Eurasia Group/Top 10 Risks 2021)