「ワールド・カップ決勝戦」
W杯決勝戦のスタディアム風景(www.news.sabay.com.kh)
やっとの思いでホルヘが入手した、W杯決勝戦の座席はスタンド最上部で、ピッチの選手たちは豆粒くらいにしか見えなかった。
あたりを見廻すと、前方に空席が一つあるのが目に入った。ホルヘは駆け下りて空席の隣の男性に、「その座席はふさがっていますか?」と訊いた。
「ふさがっているが今はいない」と男性は仏頂面で答えた。
ホルヘは、「こんな良い座席なのに、決勝戦を見ない奴の気が知れないな」と毒突いた。
すると、男性は沈痛な顔をして答えた。
「実はこれは俺の家内の座席なのだ。一年前に予約しが、彼女は亡くなったので、仕方なく一人で見に来たんだ」
驚き、恐縮したホルヘは、お悔やみを述べ、
「誰かご家族か友人で決勝戦を見たい人はいなかったのですか?」と訊いた。
男性は沈痛な表情を見せながら、頭を左右に振った。
「誰もいなかった。みんな家内のお通夜に行っている……」
お後がよろしいようで……