アメリカ便り

アメリカ便り Letters from the Americas 様々なアメリカ&メキシコ事情と両国の小話

2019年10月

アメリカ便り青グラデーション


                  米国の銃器問題(下)


          ライフルと金貨が当たる富くじ


               主催は全米ライフル協会
 


01.nra.org - コピー

                 写真:(www.nra.org)

 今夏、550万人の会員数を誇る、「個人の銃所有権利保護を目標とする、全米最強のロビイストである、全米ライフル協会(NRA National Rifle Association of America)から「銃と金貨」が当たる、という富くじの知らせが米国の自宅に着いた。
“親愛なるアメリカの仲間へ”という書き出しの「お知らせ」にはこう書いてあった。
「ゴールド・ラッシュが導火線となって、カリフォルニアにはアメリカ史上最大の移民たちがうんかの如く、押し寄せたのだった。しかし、銃と金貨を獲得するために、射撃競技と狩猟愛好者である君は何も遠くまで行く必要はない。
我々は君に銃と金貨を獲得できる、チャンスを提供したいと思い、この書面を書いている。」
 即ち、全米ライフル協会(以後NRA)の“無料富くじ”に応募すれば、銃と金貨が750人に当たる、という話なのである。書面は続く。
「我々は15丁の有名銃器メーカー製の新型、新品のライフルと15,000ドル(160万円)の金貨を賞品として用意している。9月18日の締め切り前に宝くじに応募すれば、特別に二丁のSig Sauer製の高性能ライフルが当たるボーナス富くじにも応募できる。今すぐ、同封した用紙を使って応募して、銃器と金貨を獲得しよう!」
何とこのレターはNRA主催の「富くじ」への勧誘だった。


                富くじ開催の目的
ところで、NRAが富くじを主催する目的は、「お知らせ」の2頁以降にはっきりと記されている。キーワードはこの二つである。
1. NRAへの入会勧誘
2. 銃器所有制限運動への危機感

 富くじへの勧誘に続いて、レターにはこう書いてある。「皆さん、我々の銃器を所有する権利を守るために、今すぐNRAへ入会してください。富くじに参加するために入会金を払うとかNRAに入会する必要はありません。しかし、君がNRAへ入会して下されば、邪悪にも君の銃器を所有する権利をはく奪せんと企んでいる、銃器所有規制派の政治家、判事、メディアの大軍勢に対抗している、NRAへの大きな助けとなるのです。
銃器所有禁止法案の連邦議会への提出は、時間の問題です。怒れるメディアは銃器所有規制、禁止に向けて激しい論戦を繰り広げています。彼らは君の銃器所有権利を脅かしているのです。


 選挙で選ばれた訳でもないのに、権力を握る判事たちは、銃器所有禁止法案を我々に押し付けようとし、君の銃器所有、携行する権利と自由を奪う、という憲法に反する規制を目論んでいます。
また、過激思想の持主である、億万長者たちも何億ドルもの資金を投入して、州、郡レベルで君の銃器所有し携行する自由の制限を企んでいます。


 来年の選挙で銃器所有、携行の自由に反対する敵方がホワイトハウスと上院のコントロールを獲得すれば、彼らは君の銃器所有権利を、待った無しではく奪しようとするでしょう。もし、我々がこの戦いに敗れると、敵方の次なる一手は、合衆国憲法修正第二条の消滅であることは明白です。この一手は確実にアメリカを根本的に変貌させることでしょう。」
とNRAは憲法修正第二条の消滅危機が近いと危機感をあらわにしている。

        
            修正第二条が銃器規制反対の根拠
では、憲法修正第二条とは何なのか?レポートしよう。
アメリカは昔から、一般人がごく普通に銃器を所有、携行している。これは個人が銃器を所有し、携行する権利が憲法によって認められているからである。
即ち合衆国で武装権と理解される、「人民の武器を所有しまたは携行する権利」が合衆国憲法修正第二条(権利章典を含む最初の修正10ヶ条の一部である)として議決され、発効したのは1791年12月のことだった。修正第二条は次の通りである。「規律ある民兵は、自由な国家の安全保障に必要であるから、人民が銃器を所有しまたは携行する権利は、これを侵害してはならない」。
 

02.truewestmagazine fess parker

              写真:(www.truewestmagazine.com)

 この憲法修正第二条がアメリカにおける「銃器規制-gun control」反対の根拠になっている。第二条にある、「民兵」とはラテン語のmilitiaが語源で、正規軍(the military)に対する市民軍または義勇軍を意味する。この市民軍に将校として従軍した一人がデイビー・クロケット大佐だった。インディアンの攻撃から家族、市民を守る市民軍は農閑期と非常時だけ民兵として駆けつける、正真正銘の無給のボランティアが大部分だった。
 従って、この武装権は「民兵(市民軍)を組織するための州の権利であって、個人の銃器所有と携行を認めたものではない、とする「集団的権利説」と個人の銃器保有と携行を認めるものである、とする「個人的権利説」の二つの主張が以前から存在した。


 しかし、2008年合衆国最高裁判所は、憲法修正第二条は「個人の銃器の所有と携行する権利を認めるものである」との判決を言い渡した。個人的権利説を確認した、この判決は「歴史的決断」と言われている。時の大統領はG.ブッシュJr.だった。
当時の民兵はクロケットがしたように各人愛用の銃器を持って従軍したのであるから、二世紀前は個人的権利説は「道理にかなっていた」のである。


                 NRAはどんな組織?

   

03.capeandislands.org
                 
                 写真:(www.capeandislands.org)

 NRAと聞いて心に浮かぶのは、この写真のチャールトン・ヘストンである。映画「十戒」のモーゼや「ベン・ハー」を演じたヘストンはNRAの会長としても、つとに有名だった。カリスマ性のあるヘストンの「銃器の所有は憲法で保障された我々の権利である」という雄叫びを聞くと、大方のアメリカ人は、あたかもモーゼの「思し召し」のように思ってしまったのは無理からぬことだった。半自動ライフルや全自動ライフル(機関銃)のような攻撃型銃器(人を殺すための銃)の所有も合法であると力説する、ヘストン会長が振りかざすライフルは旧式も良いところの、デイビー・クロケットが愛用したと同型のものだった。攻撃型新型ライフルを振りかざす「愚」を犯さないところが、ヘストンのマーケッティングだったのだ。

 

04.starlocalmedia.com hi schoo shooting club
                    
               写真:(www.starlocalmedia.com)

 さて、1871年創立のNRAは、米国に於ける、銃器所有と使用権利を擁護する、組織である。NRAは1934年から会員に対して、銃器に関する法律の解説を提供し始めた。1975年以降はあからさまに「銃器規制に反対する」ロビー活動を開始した。
そもそも、NRAは射撃技術の向上を目指す組織として創立されたもので、現在も銃器の安全性と能力向上を組織の大きな目的とし,NRAは各種の銃器に関する雑誌を発行し、強力な射撃競技会のスポンサーにもなっている。


 NRAの会員には個人と企業会員の両方がある。個人会員は公称550万人の巨大組織であり、年間185億円の会費収入がある他、400億円以上の各種売上がある。
また、歴代9名の大統領が会員名簿に名を連ねているのは、壮観である。
即ち、ウリセス・グラント、テオドール・ルーズベルト、ハワード・タフト、ドワイト・アイゼンハワー、ジョン F.ケネディー、リチャード・ニクソン、ロナルド・リーガン、父ジョージ・ブッシュ(1995年退会)そしてドナルド・トランプである。
 更に3名の副大統領、2名の最高裁長官も会員になっていた。その他、連邦、州議会の上下議員にも、多数のNRA会員がいるのは、もちろんである。
企業会員は社名が公表されていないので、詳細は不明だが、銃器メーカー等大企業が各社100萬ドルにも及ぶ年会費または献金を負担している。


 政治家、マスコミを初め、世間一般は、NRAはワシントンに於ける、最も影響力を持つ、三大ロビー団体、もしくは「圧力団体」の一つである、と認識している。NRAはILAと略称される、ロビー活動を専門に行う部門を持っている。
ILA(NRA立法活動協会)はPAC(Political Action Committee-政治活動委員会)制度を活用して、NRA政治的勝利基金を設立、選挙の際は連邦レベルの共和、民主両党の候補者に政治献金を行っている。なお、NRAは社会奉仕団体の認可を受け、税金が免除されている。

   

05.digg.com
                       
                   写真:(www.digg.com)

 NRAの歴史を振り返ると、この組織は法律制定に影響力を及ぼすとともに、各種訴訟を起こし、また関与して来た。そして、市、郡レベルから州、連邦レベルに至る立候補者の選挙を支援、もしくは妨害して来た。
この様なNRAの態度は銃器規制派からはもちろん、銃器所有権擁護派、或いは中立的な政治家、政治評論家からも批判を浴びている。


 近年、サンディフック小学校、ストーンマン高校等で発生して、いたいけな子供たちが犠牲になる銃乱射事件が起こるたびに、銃器規制に反対し、銃器購買者への総合的調査をも避けようとするNRAは、全国的な避難の集中攻撃を受けるようになった。
 「銃器規制」の厳格化を求める、広範な国民の動きに危機感を覚えた、NRAは巻頭にご紹介したように富くじを主催して、会員数の拡大を目指している。しかし合衆国憲法修正第二条が「人民が銃器を所有しまたは携行する権利は、これを侵害してはならない」と規定している限り、個人の銃器所有の禁止、制限は望み薄だろう。
 自衛のための拳銃は良しとしても、せめて大量殺人に使用される、半自動ライフル等の攻撃型銃器の所有はぜひとも禁止すべきだと、大方のアメリカ人は思っている。
(終わり)
参考資料:Wikipedia  National Rifle Association
           Wikipedia  Second Amendment to the United States Constitution
 

メキシコ小話


       初夜の明け方…

                   
 

laopinion.com

              写真:(www.diariofemenino.com)

 新婚初夜、二人は明け方になってやっと甘くも激しい愛の営みを終えた。
数え切らないほどの愛撫の後、もうろうとした新郎は、財布から100ペソ(5ドル)紙幣を二枚取りだすと、新婦に渡した。


「ホセ!」カンカンに怒った、新婦は「これは何の真似?説明して頂戴!」と声を荒立てた。


直ちに過ちに気付いた新郎は「ごめん、許してくれ、マリア!」と言い訳を始めた。
「素晴らしい愛撫のあと、すっかり疲れ果てて、うとうととしてしまい、自分が何をしたのかさえ、分からなくなっていたんだ。ごめん、許してくれ」とホセ。


「何をしたのか、分からなくなったですって! ひとを馬鹿にしておいて!」
と新婦は目を吊り上げて、
「私と寝て、1,000ペソ以下しか払わなかった男はあんたが初めてよ。」と怒鳴った。


お後がよろしいようで…

アメリカ便り青グラデーション


                米国の銃器問題(中)


     毎年四万人がによって死亡
              
              米国の銃関連死亡者データ


                   

1.gunbroker.com - コピー (2)
                      
                                                         写真:(www.gunbroker.com)
 今年8月に起きた、テキサスの二件の銃乱射事件に衝撃を受けた、テキサスの地元紙は
連日銃乱射事件と銃規制に関する記事を一面で報じていた。筆者は洪水のような大量の報道の中で、ある記事に注目した。これを書いた女性評論家は、「サン・アントニオ警察は退職する、警察官に在任中使用していた、官給品の銃器を2丁まで退職記念として、支給する習慣がある。」と批判していた。警察は事程左様に安易かつ軽く銃器類を取り扱っているのである。これらの銃器は、後に「見知らぬ人に販売されるケースもある」というから、呆れるほかない。これが米国の銃文化の一端なのである。
 米国で年間4万人近い人々が銃器によって殺害されているのも、このような銃器に関する軽い考え方の必然の結果とも言える。
 
米国における銃器による死亡者数は、1990年代後半から減少傾向が見られたが、最近再び上昇の兆しを見せ始めた。2017年は、1968年以来の記録を塗り替えた。
「米国の銃器問題(中)」は、同国の銃器による死亡者データに関する、一般人の10の疑問に答える形で、この悲痛な問題をリポートしたい。データはCDC( アメリカ疾病管理センター)とFBIによるものである。


1) 毎年何人が銃器によって死亡しているか?
入手可能な完全かつ最新である2017年のCDCのデータによると、39,773名である。この数字は銃器による殺人と銃器による自殺者数の合計を示す。この二種の他に、少数ではあるが、故意ではない事故による死亡、法執行機関による射殺と事情、原因不明の三つのケースがある。なお、CDCのデータは死亡診断書をもとに作成された。


2.pewresearch.org

                                                      写真:(www.pewresearch.org/)
2)銃器死の自殺と他殺の割合
銃器による殺人に比べて、自殺は一般の注目を浴びることは少ないが、自殺は永年にわたって、銃器による死亡者の大部分を占めている。2017年の銃器による死亡者数の60%(23,854件)は自殺であり、殺人は37%(14,542件)にとどまっている。残りの3%は、故意ではない事故死(486件)、法執行機関による射殺(553件)、原因不明(338件)となっている。


3)殺人及び自殺中、銃器による割合は?
2017年度の全殺人被害者、19,510名のうち14,542名が銃器によって殺害された。これは全体の75%に当たる。
一方、全自殺者中、銃器によるものは、23,854件で51%を占めている。


4)銃器による死亡者数の変遷
2017年度の銃器による死亡者数39,773は、少なくともCDCがオンラインでデータ管理を開始した1968年以降の最高値を記録した。この数値はそれ以前の最高値であった、1997年度の39,595件を少々上回っている。
銃器による殺人と自殺件数は、近年増加の兆しを見せている。銃器による殺人は2014~17年の間に32%増加したが、銃器による自殺数は2006~17年の間に毎年増加を記録し、この間、41%増加している。銃器による自殺数は2017年に最高値、23,854件を記録した。一方、同年の銃器による殺人数は、全体的に凶悪犯罪がピークに達した、1993年の18,253件には及ばなかった。因みに2017年は14,542件だった。


5)銃器による殺人率の変遷
2017年度の銃器による死亡者数は新記録だったが、この数値は米国の人口増加を考慮に入れていない。そこで、10万人当たりの銃器による殺人発生率を比較してみた。CDCのオンライン・データによると、2017年度の殺人発生率は10万人当たり12.0であるのに対し、1974年度は米国の最高値である、16.3に達していた。昨今の殺人率は確実に減少しているのだ。


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                                                                      写真:(www.pewresearch.org/)
6)米国の銃器による、殺人及び自殺率は、1990年代後半減少したが最近再び上昇し始めた
昨今の銃器による殺人率と自殺率は共に1970年代より、低下している。銃器による殺人率は2017年度の10万人当たり4.6であるが、1974年度は7.2だった。同じく銃器による自殺率は、2017年度の6.9に対し、1977年は7.7だった。
但し、1970年代の「自殺の原因」は、「銃器と爆発物による自殺」と分類していたが、その後の時代は、「銃器が関連する死亡」と分類方法が変わっている。

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                                                                  写真:(www.pewresearch.org/

7)銃器による殺人率が最も高い州と低い州は?
銃器による殺人率(PEW調査センターによる)は州によって大きな差がある。
2017年、自殺、殺人及びその他の原因による、銃器による殺人率を高い順から並べると、アラスカ・AK(10万人に対して24.5)、アラバマ・AL(22.9)、モンターナ・MT(22.5)、ルイジアーナ・LA(21.7)、ミズーリ・MOとミシシッピ・MC(ともに21.5)、アーカンサス・AR(20.3)となる。
一方、殺人率の低い州は、ニュージャージー・NJ(10万人に対して5.3)、コネティカット・CT(5.1)、ロードアイランド・RI(3.9)、ニューヨーク・NYとマサチューセッツ・MA(とも3.7)、そして、最も低い州はハワイ・HI(2.5)となっている。


8)米国の銃器による殺人率を諸外国と比較すると、
米国の銃器による殺人率は、多くの国々より高率になっている。特に先進諸国と比べると、はるかに高率となっている。一方、米国の数字は、いくつかのラテンアメリカ諸国と比べれば大分低い。以下は、ワシントン大学による、「世界195ヵ国を対象とした、健康指標調査による。」
入手できる最新のデータ(2016年)によると、米国の10万人に対する銃器による殺人率は、10.6である。この数字を諸外国の数字と比べてみよう。
カナダ(2.1)、オーストラリア(1.0)より、大分高い。欧州諸国と比べると、その差は歴然としている。フランス(2.7)、ドイツ(0.9)、スペイン(0.6)とそろって非常に低い。因みにワシントン大のデータには日本の数値はないが、2017年度の日本の銃器による死者は僅か3人だけだった。

      
   では、銃器による殺人率の高い国はどこか、検討しよう。高い順から記すと、エル・サルバドール(10万人に対して39.2)、ヴェネズエラ(38.7)、グアテマラ(32.3)、コロンビア(25.9)、ホンジューラス(22.5)である。奇しくも大部分は中南米諸国である。筆者が注目したのは、エル・サルバドール、グアテマラ、ホンジューラスの三ヶ国は、米国への移民キャラバンの三大送出国である、ことである。

 さて、銃器による殺人率の世界ランキングをみると、当然ながら米国の10.6は中南米後進国より下位の20位に位置している。


9)銃乱射事件で毎年何人の犠牲者が出るか?
これは返答に窮する質問である。何故ならば、銃乱射事件(mass shootings)には、約定済の統一された定義がないからである。銃乱射事件の定義は、犠牲者の数、事件の状況等を含む要因が多種に及んでいるため、単純な話ではないのだ。
第一の定義はDHS(国土安全保障省)の「一人またはそれ以上の犯人が、人の集まっている場所で、能動的に殺人を犯すか、或いは犯そうと企てていることを指す。死亡した犯人は数えない。」
このDHS定義に従えば、2018年の米国の「銃乱射事件」の犠牲者は犯人を除くと、85名となる。
第二の定義は、2015年に出された、議会調査局のもので、「4人またはそれ以上の死者が出た事件で死亡した加害者も勘定に入れる。」である。この定義の犠牲者4人以上の記述が銃乱射事件の定説になっている。
ところが、銃乱射事件に関する、第三の定義が存在する。米国内の銃暴力に関する、オンラインによるデータベースを管理する、「銃暴力記録保管所(GVA-Gun Violence Archive)は、銃乱射事件をこう定義している。「発砲者を含めて、4名或いはそれ以上の死者と負傷者のある事件を指す。」この定義に従うと、2018年の銃乱射事件の犠牲者は373に上る。

     以上三つの定義のいずれを採用しても、米国における、銃乱射事件の犠牲者数は、毎年米国内で発生する、4万弱の銃器による死亡者数のごく一部に過ぎない。だが、社会に与える影響はこの数字よりはるかに大きいのである。

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                                                                   写真:(www.pewresearch.org/

10)銃乱射事件は年間何件発生しているか?
最近の銃乱射事件の年間発生数を正確に知ることは、正確な犠牲者数を知ることと同様に、「銃乱射事件」の定義そのものが幾通りもあることが問題である。そこで、本項は「死亡者が出た事件のみを勘定する、DHS定義に従うことにする。
2000年から2013年の間、「無差別発砲事件(とFBIは定義する)」は増加の一途をたどった。同事件の年間平均発生数は、2000~2007年は6.4回だったが、2008~2013年は16.4回に増加した。      
FBIによると、続く2014、15、16年は年間20回、2017年は30回、2018年は27回も発生した。


11)どのタイプの銃器が殺人に使われるか?
FBIによると、2017年人発生した、銃器による殺人と故意ではない事故による殺人数、10,982件のうち64%が拳銃(handguns)を使用している。
  一方、ライフルを使用したケースは全体の4%である。なお、ライフルの範疇には、より殺傷能力の高い「攻撃型銃器」も含まれる。
散弾銃の使用された事件は、全体の2%である。残りの30%の殺人は、「他の銃器或いは器種が特定されていない銃器」によって、犯行が行われている。このように、
FBIによる統計でも、毎年米国内で発生する、すべての銃器による、殺人の細部までは把握できていないことは、注目に値する。FBIの統計、データは州及びその他地方警察から送られてくる、情報に基づいて作成されている。ところが、殺人事件に係わった、すべての法執行機関がFBIに情報を提供したわけではない。
2017年に限れば、全法執行機関のうち、90%の機関のみがFBIに彼らが関与した事件の完全な情報を提供した、と言われる。
     
                        参考資料:FACTANK News in the numbers, Aug. 16, 2019
           http://www.facebook.com/GunViolenceArchive/


(この項終わり)

アメリカ小話

                                          アイルランド人は大酒飲み
irishtimes

                                                         写真:(www.irishtimes.com)
 カウボーイハットをかぶったテキサスからの観光客は、アイルランドのパブに入ると、満員のお客さんたちに向かって声を張り上げた。
「アイルランド人はそろって大酒豪だ、と聞いています。そこで、ここにお集まりの皆さんの中で、10パイント(5.7リットル)のギネスを続けざまに飲んだ人に1,000ドルの賞金を提供したい。誰か挑戦する人はいないか?」と怒鳴った。

 パブ中はシーンと静まり返った。誰も手を挙げなかった。それどころか、一人の男はパブを後にした。
 30分後、さっき出て行った男が戻ってくると、テキサス・カウボーイの肩をたたいた。
「あんたの賭けに挑戦したいのだが、まだ受け付けてくれるかい?」と訊いた。

テキサス・カウボーイは「もちろんだよ」と言って、バーテンに10パイントのギネスを用意させた。
アイルランド男は直ちに10個のジョッキを次々に空にして行った。

パブ中の吞兵衛たちは、歓呼の声を上げて、男をたたえた。テキサス・カウボーイは感嘆しつつ、男の飲みっぷりを見ていたが、10杯のジョッキが空になると、破顔一笑して男に10枚の100ドル札を手渡した。

テキサス・カウボーイは、1000ドルを獲得したアイルランド人に、「差支えなかったら、さっき30分間外出して、どこに行ってきたのか、聞かせてくれないか?」と訊いた。

アイルランド男は返答した。
「オー!俺は近くのパブに、実際10パイントのギネスを次々に飲めるかどうか、試しに行ったのだよ。」と答えてニヤリと笑った。

お後がよろしいようで……。

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米国の銃器問題(上)

銃器規制に動き出したテキサス01.thesleuthjournal - コピー
写真:(www.thesleuthjournal.com
 テキサス州では8月3日のエル・パソで起こった、22名の死者を出した、銃乱射事件に続いて、同月31日には、エル・パソから僅か400㌔の地点にある、オデッサ市でも7人の犠牲者を出した、銃乱射事件が発生した。
テキサスの銃乱射事件は過去3年まで遡ると、2016年のダラス市の5名の警察官が銃撃されて死亡した事件、2017年の、筆者が住むサン・アントニオ市近郊のサザーランド・スプリングの教会内外での26人のキリスト教信者が銃殺された事件、そして、2018年には、ヒューストン近郊のサンタフェ市で、17歳の元生徒が先生、生徒10人を射殺する事件が起こっている。そして、今年は先に述べた二事件が発生した。これらの銃乱射事件の犯人はいずれも、半自動式ライフル等を使用した単独犯だった。
   
僅か3年間に5件の大量殺人事件による70人の犠牲者が出た、テキサス州住民のあいだから、銃規制の厳格化を求める声が急速に高まったのは当然の成り行きだった。これに呼応して、銃規制に熱心な民主党員はもちろん、銃器規制には慎重な共和党の政治家たちも、やっと重い腰を上げ始めたのである。
総合的身元調査が必要
02.patric crusius

             写真:(https://indiatimespost/el-paso-shooting/)

 いち早く反応したのは、フリアン・カストロだった。オバマ政権の住宅供給&都市開発省大臣及びサン・アントニオ市長等を歴任し、2020年の民主党大統領候補でもある、フリアン・カストロは、年来銃規制に熱心な政治家である。彼は大統領予備選のディベートでこう語っている。
「常識的な銃規制を支持します。米国は銃器購入者に対する、犯罪歴、精神病歴等を含む、『総合的な身元調査(Background check)』を義務付けることが必要だと、思います。実際、精神病歴を持つ者による銃器犯罪が後を絶たない、のです。
同時にDV、家庭内暴力を犯したものには、金輪際銃器に手を触れさせないようにする法的措置が必要です。連発銃の弾倉中の装弾数を制限する必要もあります。」
また、カストロはガン・ショウ(Gun show:中古銃器及び付属品、ナイフ等を販売する、移動「銃器市」。売手から手数料、買手からも10ドル以上の入場料を徴収する。年間5000か所で開催され、身元調査は不要。)でも銃器販売店と同等の「身元調査」の実施を提案している。何故ならば、このガン・ショウが銃器規制の大きな抜け穴の一つになっているからだ。
カストロはカリフォルニア州選出のD.フェインスタイン(民主党)が提案する、攻撃型銃器の禁止法案に賛成している。この法案は、「引き金から指を放すだけで、弾薬の装填と排莢が自動的に行われる、半自動式ライフル」の所有と携行の禁止も提案している。因みに発射も自動的に出来る、機関銃(全自動式ライフル)さえ、品薄で入手困難とは言え、所有は禁じられていない。不幸中の幸いは、一般に民間人は機関銃の所有はできない、と信じられていることだ。この件は別項で再度とりあげたい。
 
 カストロの銃器規制に関する提案は、彼が言うように実現が比較的容易いごく常識的なものといえる。だが、銃器規制面で、一番問題なのは、次の件なのである。以下、銃器メーカー業界の最大の圧力団体である、NRA(ナショナル・ライフル協会)に反旗を翻した、NRA会員である、ダン・パトリック・テキサス州副知事の談話を紹介しよう。
個人から個人への銃器売買の禁止
03.newyorktimes
写真:(www.nytimes.com)
 
「個人から個人への銃器売買が公認銃器店には義務化されている、購入者の身元調査無しに自由に行われていることが、銃器法の重大な抜け穴になっている。私が中心になって、これを是正したい。」と9月6日、FOXニュースに語ったのである。
パトリックはNRAが「個人から個人への銃器売買」の規制化に抵抗しているのは重大な「誤り」である、とも述べた。これは共和党員として、画期的な発言である。
 更にパトリックはNRAが銃器購入の際の「身元調査」の強化に反対していることに遺憾の意を表明し、この是正に全力を尽くす、とも表明した。
「『個人から個人への売買』というより、現在は、ネットを通じて、『まったく知らない人から知らない人へ』と銃器が売買されるのは、もっての他で話にならない。これらの売買は、公認銃器販売店を通して行えば良い。」と語った。

 現在、個人がインターネットを通じて、銃器メーカーから購入する場合、購入者は最寄りの銃器店で商品を受け取るシステムになっている。この際、銃器店が購入者の「身元調査」を行うことが義務付けられている。
先に述べた、5件のテキサスの乱射事件の犯人のうち、二人は「身元調査」の結果、銃器店からは銃器を購入できなかった。では、彼らはどこで「ライフル」を入手したのか?
新品でなければ、ガン・ショウでもインターネット上でも売手を簡単に見つけることができ、
しかも「医師の証明書等を含む身元調査」無しに合法的に購入できる。
 蛮勇を奮って、銃器規制の抜け穴と規制強化に反対する、ナショナル・ライフル協会(NRA)を批判した、テキサス州・パトリック副知事に、州議会は反応しなかったし、肝心の   
アボット州知事(共和党)も「銃暴力に関する特別会議」の招集を拒否した。
       現行銃器規制法は抜け穴だらけ
                                     
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写真:(www.texastribune.com)
 しかし、銃暴力に対する、州政府及び州議会の鈍い動きに対して、テキサス南部の大都市・サン・アントニオ市を擁する、ベアール郡の郡長兼郡判事の、ネルソン・ウォルフ(民主党)と郡幹部、および警察、シェリフ等から、「州政府、州議会は何のアクションも起こさない」として、厳格な銃器規制を求める発言が相次いだ。
テキサス政界の有力者である、郡判事のウォルフは、警察幹部及びシェリフを伴う、記者会見に於いて、パトリック副知事の勇気ある発言を賞賛した後、2016~18年の間にサン・アントニオ市内だけで、駐車中の車内から銃器4,000丁が盗難にあった、と証言した。同氏は「この事実は悪意を持った人間が銃器を盗むということは、最悪の結果をもたらす可能性が高い」と語った。
 判事は種々の調査によって、有罪判決を受けた犯人たちが犯行に使用した、銃器の大部分は盗難品か、或いは何らの規制もない、「街中(Street)」で入手したものである、と語った。そして、驚くべきことにこれら犯罪に使用された、AK47等の銃器のうち、正規の銃器店で販売されたものは、10%以下であることも指摘した。このように現在の銃規制は抜け穴だらけなのである。
また、子どもを巻き込む、暴発事故から銃乱射事件に至るまでの銃暴力の増加により、今や待ったなしの強力な銃規制が必要となった、と語った。同時に、警察幹部は、合法的な銃器保持者から銃器を取り上げる心算はない。我々が求めるのは、法によって所持が禁じられている、犯罪歴、精神病歴、家庭内暴力歴を持つものたちに銃器が渡らないようにしたいのだ、とも強調した。
 同時に政府は公衆教育によって、「いかにして、武装襲撃から身を護るか」から始まって、「いかにして好奇心の強い子供たちを銃器に触れさせないようにするか」を、指導する必要がある、と危機感を露わにした。アメリカ疾病管理センター(CDC-Disease Control & Prevention)によると、2013~17年の5年間に、毎年平均1500人の18才以下の子供たちが、銃器による偶発的事故及び自殺によって若い命を失っているのである。
とにかく、家庭内に銃器があるかぎり、この種の痛ましい事故は後を絶たないのだ。
          豪州の銃器買戻し制度
 連邦、州政府の銃暴力に対する、及び腰の態度に愛想を尽かした、三人のサン・アントニオ市会議員(民主党)たちは、市民が家々に所有する銃器の「買戻し制度」を提案して、二十五万ドルの予算措置を議会に求めた。市レベルでは、この程度の改革しか出来ないのが現実なのだ。   
ところで、銃器買戻し制度は1997年、オーストラリアで実施され、100万丁(70万という説もある)の銃器が買い戻された好例がある。
この数字は当時の豪州全家庭の銃器保有数の1/3に該当したので、大成功と言われた。この背景について、簡単に説明したい。
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         写真:(www.snopes.com/fact-check/australian-guns/)
1996年、オーストラリアのタスマニア島において、28才の元海兵隊員が半自動式ライフルを乱射して35人を射殺、23人を負傷させた銃乱射事件が起きた。この事件を契機として、翌年オーストラリア連邦政府は、これまで各州が独自に規制していた銃器法を統一する、国家銃器協定(National Firearms Agreement)を締結した。この改革によって、半自動式ライフルとポンプアクション銃の所有と使用が禁止された。その結果、これらの銃器の所有者は銃器を政府に売却する義務が生じた。即ち銃器保有禁止になった結果、「買戻し制度」が生まれたのである。
 この際、禁止されていない銃器の自発的返納も進んだ、と言われる。売却、又は返納された100万丁あまりの銃器はすべて破壊された。
なお、どうしても銃器を所持、使用したい者は、「銃器使用許可証」を得る必要がある。その際、正当かつ真正な「理由」を示す必要が求められる。この改革の立派なことは、自衛のための銃器保有を認めなかったことだ。
スポーツ、狩猟用等に許可された、銃器には政府の「通し番号」が振られた。2003年には短銃の所持も禁止された。これらの銃器法改革の結果、1997年以降、オーストラリアでは銃乱射事件は発生していない。
 さて、米国家庭の銃器保有数は、人口より多い、3億8000万丁もある上、「銃器の保持、携行は憲法で保障された権利」である米国で、オーストラリア方式が実行出来るとはとても思えない。政治家たちの提案が中途半端なのはそのせいなのだ。
 次回は米国における銃器による死者に関する驚くべきデータをご紹介したい。
(上)終わり

(注)この項を書くにあたって、主にテキサス州サン・アントニオ市の地元紙San Antonio Express News紙を参考に致しました。


 

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