アメリカ便り

アメリカ便り Letters from the Americas 様々なアメリカ&メキシコ事情と両国の小話

2022年02月

アメリカ小話

      「神父さまはマーケティングを分かっとらん」

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       写真:https://www/accidentaltalmudist.org/

【蛇足的まえがき】

 この小話は国境を越えて人気がある定番小話です。主役は神父ではなく、ユダヤ人であります。マーケティングとは一言で言うと、「売れる仕組みを作ること」だそうですが、この技術に長けているのはユダヤ人ですね。例えば、ある暑い中東の国のハイウエイ休憩所で「飲料水」を売って繁盛しているユダヤ人がいます。すると、彼は同郷の若者を雇って、隣で「ネクタイ」を売らせるのです。「この糞暑いところでネクタイ?」と思うのは素人。ユダヤ人は水売場に「ネクタイ着用のお客のみに売ります」と案内を出すのです。すると、お客さんは文句だらだらでも、ネクタイを買わざるを得ないのであります。これがユダヤ式マーケティングというものです。

 さて、小話の舞台はバチカン。ユダヤ人たちのマーケティング手法をお楽しみください。
(テキサス無宿記)

 

一笑一若・アメリカ小話「神父さまはマーケティングを分かっとらん」

 

バチカンのサン・ピエトロ大聖堂の前で二人の男が物乞いをしていた。

 

右側の物乞いは胸に大きな十字架を下げ、左側の物乞いは大きなダビデの星(ユダヤ教徒を表わす)が描かれたカンを前においていた。

 

サン・ピエトロを訪れる善男善女は、左側のユダヤ人物乞いをにらみ付け、右側の十字架の物乞いにお金を恵むので、彼のカンからはお札と硬貨が溢れ出ていた。

 

やがて、二人の乞食のそばを通りかかった神父さまは、両人の甚だしい違いに気付き、ユダヤ人物乞いに近づいた。

「失礼ですが、あなたはここが世界のカトリック教会の大本山であることを理解していますか? ダビデの星を付けたカンを持ってここで物乞いなどしてはいけません」と言った。

「見てくれ、誰が我々にマーケティングについて講釈しているかを。この神父はマーケッティングを分かっとらん。河岸をかえようぜ、相棒!」

と言うと、二人して十字架の物乞いが得たお金の入ったカンの中身を二つに分けて袋に入れると、両人は夫々分け前を担いで大聖堂を後にした。

 

お後がよろしいようで……。


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「松山選手、マスターズのディナーは何をご馳走してくれるの?」

 

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      写真:(https://www.golf.com)

 昨年4月、松山選手が日本人いやアジア人初のゴルフの最高峰のトーナメントである、マスターズ・トーナメントのチャンピオンになってから1年になろうとしている。マスターズ週間の火曜日に開催される、伝統あるマスターズ・クラブ・ディナーのメニューは、前年のチャンピオンが作成する決まりになっている。従って、今年は松山選手がディナーのメニューを作るのである。という訳で、見出しにある、質問をする次第だが、その前に、マスターズの歴史を簡単におさらいしておこう。

 

1934年に球聖ボビー・ジョーンズによって企画されて始まった、Augusta National Invitationは、第6回の1939年からマスターズ・チャンピオンに名称が変更して現在に至っている。

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        写真:(https://www.masters.com)

マスターズ・トーナメントはボビー・ジョーンズによって設計、創立された、ジョージア州のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで開催される。数々の名勝負と伝説を生んできたこの名クラブとマスターズ・トーナメントの伝統の一つとして、4月第1週のマスターズ週間の火曜夜に開催される、前年のチャンピオンがホストを務め、グリーンジャケットを着た、チャンピオンが一堂に会する、ディナーがつとに有名である。因みに、チャンピオン以外の出席者はクラブの会長のみである。また、オーガスタ・ナショナルは2012年まで女性は会員(パトロンと呼ばれる)になれなかった関係で、ディナーにチャンピオンの夫人は招待されないこともクラブの伝統になっている。

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   写真:(https://www.masters.com

さて、この伝統あるディナー開催を提案したのは、伝説的名選手のベン・ホーガンだった。1951年のマスターズ・チャンピオンになった、ベンは翌年、オーガスタナショナルの創設者である、ボビー・ジョーンズとロバーツに手紙を送って「マスターズ・チャンピオンズ・ディナー」の開催を提案した。

ベン・ホーガンは「我々ごく少数の幸運なるものたちが毎年このトーナメントを楽しみにしているのだが、毎年のマスターズの開催時にチャンピオンたちが再び集まって、過去の厳しかったゲームの思い出にふける集まりがあったら、なお素晴らしいと思う」とディナー開催を提案する手紙を書いた。

この提案は直ちにジョーンズとロバーツ両人の賛同を得て、1952年、マスターズ・チャンピオンズ・ディナーが始まったのである。

 

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タイガーが提供したディナーのメニュー  写真:(https://www.masters.com)

伝統あるディナーの素晴らしい点は、前年チャンピオン自らがそのディナーの全メニューを作ることにある。当然、料理の費用もホストである、チャンピオンが負担するのである。幸いにも直近20年のディナーのメニューが残っているので、ご紹介したい。

 

私はマスターズのチャンピオンになるような紳士たちは舌が肥えていて、ミシュランの三ツ星レストランのシェフにでもメニュー作成と調理を依頼する、と思っていたのだが、そんなことはない。例えば、2013年と2015年にチャンピオンになった、ババ・ワトソンは、いかにも食べ物には関心がないアングロサクソン系らしく、この二回のディナーともまったく同じメニュー、料理を提供した。

 

 タイガーも最初のマスターズ・チャンピオンズ・ディナーを主催した1998年には、マクドナルド風のチーズバーガー、チキン・サンドイッチとフライド・ポテト、ミルクセーキを提供している。弱冠21才のタイガーには、これが立派なご馳走だったのだろう。このとき、大長老のバイロン・ネルソンは「これは家では食べないからな」と言って、喜んで食べたという。だが、タイガーは次の機会にはババと違って、まともな料理を提供している。

 

松山も4月第一週火曜日のディナー・メニューはもう考えているだろうが、何を提供するか楽しみである。日本料理は幾人かのチャンピオンが提供しているので、松山は「これこそが日本料理だ!」と言う、本格的日本料理を振る舞って欲しいものだが、マスターズのディナーは料理コンテストではないので、肩ひじ張ることはないし、これまでのメニューを見ると、ほとんどがB級グルメ並みかそれ以下である。

 

 でもそれで良いのだ。1952年にベン・ホーガンがマスターズ・クラブ・ディナー開催を提案したときの目的は、「マスターズ・チャンピオンたちが年に一度一堂に会して、厳しかったゲームの思い出にふけること」だったのだから、食事は二の次なのである。

 

これまでのチャンピオンたちの考案し、提供したメニューを見ると、外国選手は自国料理、アメリカ選手は郷土料理を提供するのが定番になっている。しかも多くのチャンピオンはこのディナーに本腰を入れて準備している。例えば、2014年のアダム・スコットは、わざわざオーストラリアから自家用機でロブスターを運んできた、という。例外はウッズで彼はメキシコ料理と日本料理が好みらしい。それにしても、アメリカ選手の選んだメニューはファースト・フード風が多いのは意外だった。

 

そうそう、大事なことを忘れるところだった。もし招待客がチャンピオンが選択したマスターズ・クラブ・ディナーのメニューがお気に召さない場合は、オーガスタ・クラブの通常メニューから好きな料理を注文できることになっている。配慮の行き届いたことである。

では、次にチャンピオンたちの選んだメニューを25年間分お届けしよう。

さて、読者の皆さん、あなたは誰のメニューを食べたくなるでしょうか?

 

マスターズ・チャンピオンが選択したメニュー

 

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    写真:https://www.golfworld.com

タイガー・ウッズ(カリフォルニア出身)2020

前菜:オーガスタ・ロール(太巻き、エビ天ぷら、スパイシーまぐろ、アボカド、うなぎたれ付き)、プライム・ステーク、チキン・ファヒータ、メキシカン・トルティーヤ、デザート:チューロスとチリ―風ドーナッツ

 

パトリック・リード(テキサス出身)2019

シーザーサラダとウエッジ・サラダの選択、カウボーイ・スタイル 骨付きリブアイ・ステーキ、マカロニ、デザート:ティラミス、プラライン・チーズケーキ

 

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    写真:(https://www.golfworld.com

セルヒオ・ガルシア(スペイン)2018

マスターズ・チャンピオン諸氏の母国の食材を使った国際サラダ、スペイン伝統のロブスター入りご飯(パエリア)、デザート:アンジェラ・ガルシア風トレス・レッチェ・ケーキ。セルヒオはデザートに夫人の名を冠したのである。

 

ダニー・ウイレット(イギリス)2017

ミニ・コッテージ・パイ、サンデイ・ロースト風プライム・リブ、デザート:アップル・クランブルとヴァニラ・カスタード

 

ジョーダン・スピース(テキサス出身)2016

地元野菜のサラダ、テキサス風バーベキュー、野菜のBBQ風料理、デザート:アップル・クランブル、チョコレート味クッキーとヴァニラ・アイスクリーム

 

ババ・ワトソン(フロリダ出身)2015

彼の2013年のメニューと同じ料理

 

アダム・スコット(オーストラリア)2014

「波と芝」のグリルの前菜、ロブスター、烏賊、アーティチョークとルッコラのサラダ、メインはオーストラリア産和牛のサーロインステーキ、モレトン湾産のロブスター添え、デザート:いちごとパッションフルーツのメレンゲ・ケーキ、オーストラリア風アンザック・ビスケットとヴァニラ・サンデー

 

ババ・ワトソン(フロリダ出身)2013

クラシック・シーザーサラダ、鶏の胸肉グリル、とうもろこしパン、デザート:コンフェティ・ケーキ、ヴァニラ・アイスクリーム

 

シャール・シュワーツェル(南アフリカ)2012

前菜:エビ、ロブスター、カニ、タラバガニ脚、かきの海鮮オードブル、

メイン:子羊の骨付きチョップとカキの南アフリカ風バーベキューbraai、南アフリカ・ソーセージ、デザート:ヴァニラ・アイスサンデー、

 

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      写真:(https://www.golfworld.com

フィル・ミケルソン(カリフォルニア出身)2011

スペイン風メニュー、前菜:海鮮パエリア、アスパラガス・サラダ、

メイン:ヒレミニョン、デザート:リンゴのエンパナーダとアイスクリーム

 

アンヘル・カブレーラ(アルゼンチン)2010

アルゼンチン風焼肉(チョリソ、血のソーセージ、ショートリブ、ヒレ肉、砂肝)

 

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   写真:(https://www.golfworld.com

トレボール・インメルマン(南アフリカ)2009

ボボタイ(南アフリカ式ひき肉パイ)、ソサタイ(南ア式チキンの串焼き)、

ホウレンソウのサラダ、ミルク・タルト、南アフリカワイン

 

ザック・ジョンソン(アイオワ州出身)2008

アイオワ産牛のヒレミニョン、まぐろのステーキ、フロリダ産エビ、デザート:ポテトのキャセロール、チョコレート・ケーキ

 

フィル・ミケルソン(カリフォルニア出身)2007

牛のあばら肉、チキン、ソーセージ、豚の燻製のバーベキューとコールスロー

 

タイガー・ウッズ(カリフォルニア出身) 2006

チーレレイエーノ(メキシコ風ひき肉のチリ唐辛子詰め)、ケサディーヤにサルサとワカモーレを付けて、チキンのファヒータ、メキシコ風ご飯、

デザート:リンゴパイ、アイスクリーム

 

フィル・ミケルソン(カリフォルニア出身)2005

ロブスターのラビオリ、シーザーサラダ、ガーリック・パン

 

マイク・ウエア(カナダ)2004

ヘラ鹿、イノシシ、イワナ、カナダ・ビール

 

タイガー・ウッズ(カリフォルニア出身)2003

タイガーは2002年のメニューのポーターハウス・ステーキ、チキンと寿司に加えて刺し身、サラダ、カニのコロッケ、アスパラガス、マッシュポテトを付け足した。

デザート:チョコレート・ケーキ

 

タイガー・ウッズ(カリフォルニア出身)2002

寿司の前菜、ポーターハウス・ステーキ、チキン

 

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    写真:(https://www.golfworld.com

ヴィジェイ・シン(フィジー)2001

海鮮料理トムカ、タイ風チキンカレー、ニンニク味焼き帆立貝、ラムのあばら肉黄色のカリソース掛け、チリ―産羽太(はた)、デザート:リチーシャーベット

 

マーク・オメーラ (北カロライナ) 1999

まぐろの刺し身、寿司、チキン・ファヒータ、ステーキ・ファヒータ

 

タイガー・ウッズ(カリフォルニア出身)1998

チーズバーガー、チキン・サンドイッチ、ポテトフライ、ミルクシェーキ

 

ニック・ファルド(イギリス)1997

トマト・スープ、フィッシュ&チップス

 

ベン・クレンショー(テキサス出身)1996

テキサス風バーベキュー

 

ホセマリア・オラサバル(スペイン)1995

パエリア、メルル‐サ(魚)、タパス各種

 

 マスターズ・チャンピオンの皆さん、ご馳走さまでした。

(終わり)

 

参考資料:Masters` Champions Dinner: The history and the menus (Today`s Golfer`s)

          The Masters “ Champions Dinner” by Golf Today Editor

        14 Curious Masters Champions Dinner Choices

by Alex Meyers 


メキシコ小話OK

「寒くて眠れません」

 

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         写真:https://www.dreamstime.com)

蛇足的まえがき】

どの国の小話も「一夜の宿探し」のテーマは人気がある。この場合主人公は若いセールスマンであり、山中の一軒家の住人は老人と彼の若い娘であるのが定番である。小話の主人公の職業で多いのは、聖職者、弁護士、医師と政治家である。そろいも揃ってお堅い職業なのが面白い。一方、女性の職業としては娼婦、先生と秘書が活躍するが、妻、恋人、愛人としてはほぼでづっ張りである。さて、今週の小話の宿探しの主人公は、聖職者、それも神父さまと修道女である。二人は巡礼からの帰途という設定である。こんな組み合わせが「一夜の宿探し」をするとは、非常に稀有なケースと言える。

だいたい神父は「司祭」に叙階する際、「一生不犯」の誓いをするのが掟である。要するに一生淫戒を犯さない、平たくいえば、男女の交わりをしない、という誓いである。さ~て、神父と修道女は同じ部屋でどんな一夜を過ごすのだろうか? (テキサス無宿記)

 

一笑一若・メキシコ小話「寒くて眠れません」

 ある寒い日のことだった。巡礼に出た神父さまと修道女は修道院への家路を急いでいた。陽は落ちたが、修道院はまだほど遠かった。

すると、山中に山小屋風の家がポツンと建っていた。

 

 これ幸いと二人はそこで一夜を過ごし、翌日旅を続けることにした。

無人の山小屋に入ると、ベッドは一つしかなかった。

それを見ると、二人はしばし無言で互いに顔を見かわせた。神父さまが口を開いた。

 

「シスター、あなたはベッドで寝なさい。私は床で眠るから」と神父さまが言った。

シスターはベッドに入り、神父さまは部屋の隅で横になった。

 

 大分経った真夜中、シスターは神父さまに声をかけた。

「神父さま、起きていらっしゃいますか?」

 

まどろんでいた神父さまは、「シスター、何か用かね?」と訊いた。

 

「神父さま、寒くて眠れません。毛布か何かないでしょうか?」

とシスター。

 

神父さまは起き上がると、「よし、探してこよう」と言って、洋服ダンスのなかを物色して、毛布を取り出すと、シスターに優しく掛けてやった。

 

1時間後、ふたたびシスターは神父さまに声をかけた。

「神父さま、まだ起きていらっしゃいますか?」

 

「どうしたんだ、シスター。今度は何かね?」と神父さま。

 

「寒くて眠れません、神父様。もう一枚毛布はないでしょうか?」とシスター。

「いいとも、探してこよう」と言って、神父さまはふたたび起き上がると、毛布をとりに行った。

 

 もう1時間経った。

「神父さま、起きていらっしゃる?」とまたシスターが声をかけた。

 

「はい、シスター。今度は何だね?」と神父さまが訊いた。

「寒くて眠れません、神父さま」とシスターは同じ台詞を繰り返す。

 

 すると、神父さまは「シスター、ここで我々は二人きりです。そうですよね」と言った。

「そうです、神父さま」とシスター。

「ここで起きたことは我々二人しか知る者はいないですよね。そうだね」と神父さま。

「そうです、神父さま」とシスター。

 

「今、思いついたことがある。どうだい、これから『夫婦ごっこ』をやろうじゃないか。私が夫で君が妻というわけだ」と神父さまは提案した。

シスターは直ちに「賛成、大賛成!私たちは夫婦ってわけね」と喜んだ。

 

 すると神父さまは、「それでは」と言うと、突然、口調を変えると、大声で怒鳴った。

「いい加減にしろ!起き上がって自分で毛布を探しに行け!お前があんまりしつっこいので私は頭にきている。エロチックなフィナーレを夢見たつぐないに、アベマリアの祈りを100回、主の祈りを200回唱えなさい。

私は神にお仕えする神父です。君とじゃれ合うことは出来ない。これ以上邪魔しないでおくれ。私はお祈りを続けるから」と神父さまはおっしゃった。

 

お後がよろしいようで……。


アメリカ便り青グラデーション

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       「2022年の世界10大リスク(下)」

 

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      写真:Eurasia Group

 

2022年の世界10大リスク No.1

「中国のゼロ・コロナ政策の失敗」

【蛇足的まえがき】

毎年1月、「アメリカ便り」は世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社である、ユーラシア・グループによる、その年の世界における10大リスクをレポートしています。この予想は良く当たるのです。昨年のリスクNo.1は「46」でした。46とは米国の第46代大統領である、バイデン氏のことです。

ご承知のように米国は、バイデン政権1周年にして、早くも国民、国論が真っ二つに割れてしまい、今年の中間選挙は野党の共和党が大勝する、という予想がまかり通っています。ことほど左様にユーラシアの世界リスク予想は当たるのです。

 さて、2022年の世界10大リスクNo.1は「中国のゼロ・コロナ政策の失敗」であります。そのうえ、ユーラシアはリスクNo.4に「中国内政」を挙げています。2020年の中国による、「ゼロ・コロナ政策」の驚異的な成功の反動によって、中国のみならず世界は今、深刻な事態に陥っているのです。このレポートにオリンピックの「オ」の字も出て来ないことにも驚かされます。下記はユーラシア・グループによる「2022年の世界10大リスクのNo.1リスク「中国のゼロ・コロナ政策の失敗」の全文翻訳です。

なお、アメリカ便り「2022年の世界10大リスク(上)」で、10大リスクの概要がご覧いただけます。(テキサス無宿記)

 

 

我々はコロナ、いや今はオミクロン株で床についている。そしてパンデミックはまだ居座る気でいる。パンデミックを収束できるかどうかは、居住場所によって異なる。危機的なことは、中国のゼロ・コロナ政策が失敗するだろう、ということだ。

 

先進諸国ではコロナの収束は間近である。新たに優勢になった、より感染力の強いオミクロン株によって感染者数が爆発的に増加している現在、そんなことは信じられないかも知れない。しかし、これらの記録的に強い感染レベルはワクチン接種率の高い、先進国の住民間に於いても同様である。彼らが接種しているワクチンは最も効果の高いmRNA型ワクチンであり、入院や死亡のリスクを最小限に抑えるコロナ治療薬の発売も間近である。

これは、先進諸国においては今年の第1四半期末には、パンデミックはエンデミック(地域的風土病)になることを意味する。より強い致死力の変異株の出現はテールリスクとして存在するが、これに対抗する手段がすでにある現在、さほどの危機にはならない。(もしオミクロン株がワクチンが無かった1年前に世界を襲っていたならば、世界の滅亡と感じられたことだろう)。

 

ゼロ・コロナが引き起こす更なる危機

だが、ほとんどの国を待ち受けているのは、より深刻な事態である。それはオミクロンのせいだけではない。

中国は2020年に驚異的な成功を収めた「ゼロ・コロナ政策」のせいで、かえって非常に深刻な事態に陥っている。何故ならば、はるかに感染力の強い変異株に対抗するため、より広範なロックダウンと効果が限定的なワクチンによる対応しか出来ないからだ。

おまけに、中国の国民はオミクロン株に対する抗体をほとんど持っていない。2年間におよぶ国全体のロックダウンは、解除する際の危険性をより高めてしまった。

3期目に向けて、習近平が望む国の姿とは正反対だが、どうすることも出来ない。なぜなら、「ゼロ・コロナ政策」の初期の成功体験と習近平の個人的な思い入れによって、軌道修正はもはや不可能になっているからだ。

 

中国の対コロナ政策では感染を抑えることが出来ず、感染が一層拡大し、より厳しいロックダウンが必要になるだろう。そうなれば、経済的混乱はさらに巨大化し、国家による介入も増え、国営メディアの「中国はコロナに勝った」という勝利至上主義とは相いれない国民の不満の声が上がるだろう。

少なくとも、国産のmRNAワクチンやブースター(追加接種)が全国民に行き渡る、最速でも年末までこの状態から抜け出せないだろう。これは、コロナ以前は世界の主要な成長エンジンであった、この国が厳しい苦境に立たされることを意味する。 

 

  中国の問題は世界中に影響する

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     写真:(https://www.presstelegram.com)

中国の問題はサプライチェーンの混乱に拍車をかけ、今後も地球規模の継続的リスクとなる。輸送上の制約、(特に中国国内の)コロナの感染拡大、労働力、原材料および設備の不足と、何よりも中国のゼロ・コロナ政策によって、商品の入手が困難になる。海上輸送費の高騰は、自社船の所有はおろか、コンテナを予約する資金に事欠く中小企業に大きな打撃を与える。

供給制約は2022年中には解消するはずだが、多くの分野で混乱が続くだろう。

米国の主要港における、中間期の契約交渉とそれに伴う物流の停滞が困難に拍車をかける。

こうしたサプライチェーンの諸問題は政府の介入を促すだろうが、国の介入は市場をいっそう歪め、調整のインセンティブを減衰させることによって、より事態を悪化させる恐れがある。

 

また、経済面では、長引く高インフレは政治的、経済的なすべての面で影響を与えるだろう。市民がロックダウンや休業、犠牲や不安を耐え忍んでいる間に、食料品やガソリン価格が高騰している。パンデミックを主な原因とする需要の低迷、サプライチェーンの混乱、労働力不足などすべてが物価を押し上げる。これは、景気回復の促進と物価上昇の抑制とのバランスを取らねばならない中央銀行にとっても大問題である。

すでに、多くの新興国市場(emerging market)の中央銀行は、インフレ率の上昇(および上昇期待)を抑えるため、利上げを迫られている。主要先進諸国の中央銀行もまた金融引き締め政策に方向転換している。インフレの高騰は経済格差を生み、経済不安定と国民の不満を募らせる。

 

  低所得国のワクチン接種率は8%

オミクロン株は先進国と発展途上国とのギャップを拡大させる。新興国市場で使用されているワクチンの大部分は感染に対する防止力が低く、mRNA型ワクチンに比べて重症化や死亡を防ぐ効果も低い。低所得国で少なくとも1回のワクチン接種を受けたのは人口のわずか8%に過ぎず、しかもその効果は限られている。

先進国におけるブースター接種の需要により、効果的なワクチンが新興国市場に届くことが妨げられ、せっかくワクチン接種を受けた人でさえも継続的な効力を失うことになる。

そうなれば、発展途上国での不公平感はさらに深まることになる。

 

感染拡大の継続は、多くの新興国市場において成長が期待できないことを意味し、先進工業民主主義国家と比較すると、社会での動向に恒久的ギャップが生じ、世界的格差がさらに拡大する。新興国市場の大半は、社会支援を打ち出してパンデミックに対応したが、これらは主にセーフティーネットを拡大させる、単発のプログラムであり、長期的支援ではなかった。

新興諸国は現在、先進国・新興国の両世界における最悪の事態に直面している。すなわち、感染拡大が続く中で、財政支出を増やす余裕のないひっ迫状況と国家財政収支の赤字である。

 

    債務爆弾の危機

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     写真:(https://elnuevoheraldo.com

2022年は世界的な資金調達コストが上昇するため、新興国市場は上昇する債務水準と継続する大幅な財政赤字への資金注入がますます困難になり、いわゆる債務爆弾の条件が整うことになる。危機発生の引き金が何であれ、利上げと利用可能な資金の減少により、多くの開発途上国が財政難に陥り、債務返済計画の見直しを迫られる国も出て来るだろう。

すでに通貨危機に陥っているトルコ以外にも、最も脆弱な国として、ラテンアメリカ諸国の一部、スリランカとチェニジアなどが挙げられる。

 

低成長、高インフレ、格差の拡大により、政府に対する国民の不満が高まり、政情は1990年以降には見られなかった段階まで不安定化するだろう。これは一部の国では、国政選挙における反現職や(ブラジル、アルゼンチン)、異端的政策の実施(トルコ)といった急激な変化となって現れるだろう。

パンデミックに至る過程で急激に格差が減少した国々は、反対にパンデミックがもたらす、格差の急増大による、政治的影響を受けることになる。これらの国々はチリ―、コロンビア、エクアドール、タイ、ブラジル、ヒリッピン、チェニジア等である。

 

中国がコロナ感染を拡散し始めてから2年経った今も、コロナウイルスによる混乱はとどまることを知らない。コロナとの戦いで最も成功した政策が、最も失敗した政策になってしまったのだ。(終わり)

 

資料:Top Risk 2022 by Eurasia group


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