2022年・暑気払い小話大会第2弾
「もう寝ちゃったの?」
写真:(www.aliexpress.com)
【蛇足的まえがき】
今週のメキシコ小話の主人公のババルカスはCaton作小話のボケ役を務める、お人好しの青年である。メキシコではお人好しはバカの代名詞でもある。ババルカスのババ(baba)はよだれの意であり、よだれを垂らしながら歩く牛から連想して脳足りん人物を指すのである。ババルカスでは長いので、今後は親しみを込めてババと呼びたい。
さて、メキシコ小話の数ある定番中、「テキサス無宿」のお気に入りは、「一夜の宿」シリーズである。車が故障した地方回りのセールスマンが、道路わきの農家に「一夜の宿」を求める話である。農家の住人は老人と年頃の美女と決まっている。「娘にちょっかいをだすな」という条件でセールスマンはその農家に泊まることになる。そして、起こるべきことが起こるのだが、メキシコにも寅さんのようなドジなのもいるので想定外なことが起きる。娘さんがネグリジェ姿で「もう寝ちゃったの?」とババに迫ってくると…。続きは後段の一笑一若・メキシコ小話「もう寝ちゃったの?」でE N J O Y !!! (テキサス無宿記)
一笑一若・メキシコ小話「もう寝ちゃったの?」
ドジ男のババが救急車で救急センターに搬送されてきた。額と頭部に切り傷、青あざがあり、顔は打撲傷で巨大に腫れ上がっているうえ、額に血がこびり付き、髪の毛もザンバラになって、見るからに凄まじい恰好になっていた。
当番のドクターは驚いて、「どうしました? 強盗にでも遭ったのですか?」と訊いた。
ババ:「いいえ先生、自分で壁に頭をぶつけて、傷とこぶをつくったのです」と言った。
ドクター:「それは又どうして?」と驚いて訊いた。
ババ:「一部始終を話します、先生」と言って、ババは話はじめた。
以下はババの聞くも涙のストーリーである。
5年前、運転している車が故障してしまったのです。夜遅くて雨がふっていました。幸いにも灯りのついた一軒の農家が目に入ったので、一夜の宿を求めたのです。話を聞いてくれた農家の主人は良い人で、「家に泊まっていきな」と言ってくれました。
遠慮なく、泊めてもらうことにしました。娘さんの部屋を空けてくれて、彼女は居間に寝ることになりました。そうそう彼女はすごい別嬪でした。
夕食を食べ終わったご主人は二階に上がって行き、私は娘さんの部屋のベッドに入りました。
しばらくして、音もなくドアが開くと娘さんが部屋に入ってきました。彼女は透け透けの黒いネグリジェを着ていました。「何の用かな?」と自問しましたが、何か忘れ物をしたのだろうと思い、寝たふりをしました。
彼女は数分間、何かを待っていたようでしたが、やがて出て行きました。
少し経つと、彼女は再び戻って来ましたが、私はまた寝たふりをしました。彼女は何しに来たのだろうか、と私は不審に思いました。
すると、彼女は私を揺り動かして、目を覚まさせようとしました。しかし、私は彼女が何を欲しているのか分からなかったので、また寝たふりをしました。彼女は再び部屋から出て行きました。
ところが、驚いたことに少し経つと、また彼女は部屋に入って来ました。何しに来たのだろう、と私は不安になって来ました。今度は私の耳に口を近づけた彼女が「もう寝ちゃったの?」と訊きました。良い匂いがしました。
それでも、私は寝たふりを続けました。何故なら、娘さんが何を欲していたか想像も出来なかったからです。
私が目を覚まさなかったので、諦めた彼女は部屋を出て行き二度と戻って来ませんでした。
先生、あれから五年経ちました。その後ずうっと、私はこの件について自問自答してきました。あの夜、彼女は何を求めていたのだろうかと……。
ついさっき「あっ、そうか!」と、やっと彼女が何を求めていたのかに気が付いたのです。そして私は壁に頭をぶつけ続けたのです、何度も何度も。
どアホな自分が情けなくて、愛想が尽きて、腹が立って………。
お後がよろしいようで……。