写真:(https://ima-earth.com)
【蛇足的まえがき】
「日系人から学ぶ日本人の誇り」は10月30日、紀伊民報紙のコラム「故郷への便り」に掲載された、真砂睦氏のエッセイである。大学の後輩である真砂君は、商社マンとしてブラジルの鉄鉱山の買収、地元資本との合弁開発事業を立ち上げた、貴重な経験を持つ敏腕ビジネスマンである。
永年ブラジルで勤務した同氏は、ブラジルと同国で活躍する日系人の魅力に捕らわれ、退職後はJICAの「日系社会シニアボランティア」として、JICAサンパウロ事務所で3年間、日系社会支援活動を行ったのは、企業時代に助けてもらった日系人への「ささやかな恩返し」という気持ちからだった。
今回真砂君氏は「日系人であることに誇りを持つブラジルの同胞諸氏」が我々に残してくれた「財産」について語ってくれた。ご味読いただければ幸いである。
(テキサス無宿記)
日系人から学ぶ日本人の誇り
ブラジルでは「日本人は信用できる」という評判が浸透している。
私は1970年代前半、リオデジャネイロに住んだことがあるが、日本人が信用されているおかげでずいぶん助けられた。当時、鉄鉱山開発事業準備のために州をまたいで出張することが多かった。まだクレジットカードが普及していない時代。経費の支払いは小切手が一般的だったが、小切手は不渡りのリスクがあり、別の州に住んでいる人物の小切手は受け取ってくれないのが通常だった。
リオ州発行の小切手しか支払い手段を持たない私は当初、大いにとまどったが、相手が私を日本人と知ると、例外なくオーケーといって小切手を受け取ってくれた。その時、先人が懸命に築き上げた、日本人や日系人に対する信用という財産のありがたさを身をもって体験した。
こうした信頼の基となっているのが「正直、勤勉、約束を守る」といった日系人の気質。それを日系人自身も良く認識しており、今もその遺産を次の世代に引き継いでいる。
日系人の1世~4世の平均97%が「日系人として誇りをもっており」(2018年サンパウロ人文科学研究所調査)、自信をもってブラジルの国造りに大きな貢献をしているのだ。
一方、彼らの祖先の国、日本はどうか。世界80ヶ国以上の大学や研究機関がほぼ5年ごとに実施している「世界価値観調査」を引用した橘玲の著(日本人)によると、2005年の調査全82問中、日本は下記の項目で他の国々と大きな違いを見せたとある。
「(戦争が起きた時)進んで国のために戦うか?」、「日本人であることに誇りを感じるか?」という質問に対して「はい」と答えた割合が、全調査対象国のうち、日本が世界で一番低かったのだ。「国のために戦うか」という問いに「戦う」と答えた日本人はわずか15%にすぎない。
「日本人であることに誇りをもっている」と答えた人は57%。アメリカと韓国の89%、英国の85%、フランスの84%と比べ、最低のレベルにある。
日本人はどうしてこうなったのか。 同じ日本人の子孫である、ブラジルの日系人の意識との格差はどうして生まれたのか。
私たちが実施している、地域出身のブラジル移住者が果たした偉業の顕彰事業に対し、ブラジル和歌山県人会の「2世の会長」がよせてくれた祝辞は「地元が生んだ偉大な人物の業績を知ってもらい、地域の若い方々に、彼の生き方から多くのことを学んでもらって、人生の模範として誇りを持って頂きたい」という言葉で締めくくられていた。
この15年間にわたる私たちの中南米との交流活動は「日本の若者に誇りと高い志をもって人生を生き抜いてもらいたい」ことを伝えるのが狙いだった。誇り高き日系人の方々に背中を押され、私たちもまた、微力ながら日本の若者に「誇りをもつことの大切さ」を伝えていきたい。 (了)